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中小企業金融への側面援助と職業会計人の意識改革

中小企業金融への側面援助と職業会計人の意識改革
(とうかんきょう平成17年1月1日号)原稿作成時60歳

1、はじめに
2、中小企業会計基準問題
3、財務諸表の顔の方向
4、職業会計人の二律背反性


地域金融機関の監査業務を通じて平素から、他の会計事務所が作成した、様々な中小企業の決算書を見させていただいていますが、その決算書のあり方をみて痛切に感じる所があり書かせてもらいました。
会社法改正後は、当事務所では事務所従業員の意識改革をしております。


                   

中小企業金融への側面援助と職業会計人の意識改革

公認会計士東京会 共同事務所連絡協議会
会 長  渡 辺 俊 之

1、はじめに

中小企業会計の質の向上が叫ばれているが、これは中小企業の計算書類の制度と信頼性に問題あることが、中小企業金融の円滑化を阻み、中小企業にとっての資金調達を困難にしているからである。
大企業の監査業務専業の公認会計士は別として、中小企業との関わりが深い個人独立系の公認会計士は、中小企業の会計を税務業務の側面から関わる場合が多いといえる。
つまり税理士としての公認会計士の立場にも通ずる。
そして専業税理士の業界は、さらに税務からの視点で中小企業会計を捉えがちである。
そこで本稿ではあえて、中小企業金融を側面から援助すべき立場にあるべき公認会計士兼税理士の意識改革を訴えたく稿を進めるものである。

2、中小企業会計基準問題

日本公認会計士協会が出した「中小企業の財務諸表の様式及び記載内容のチェックリスト」、「中小企業の総合力評価チェックリスト」や中小企業庁の出した「中小企業の会計」そして、税理士会で出した「中小企業会計基準」、「中小会社会計基準適用に関するチェックリスト」が会計関連業界ならびに金融機関の中で注目を浴びている。
それは冒頭に述べたこととは裏腹に、中小企業金融の再生に向けて我々職業会計人に向けられた期待がますます大きくなってきているからでもある。

そのような期待とは別に中小企業会計基準とは、いかにあるべきかの議論も多方面から賑やかになっている。
そして中小企業会計の信頼性確保のためのツールである様々なチェックリストでも、公認会計士協会は、保証業務の「保証」の意味について、何年も前からというより何十年も議論し、さらに企業会計審議会でも、公認会計士協会内部でも今まさに議論が沸騰しているゆえか、その姿勢は当然に慎重である。

そこへ行くと税理士会の姿勢は、皮肉めいた言い方ではあるが「勇気がある」という表現をしてみたい。それがまた金融機関等から評価されたりしている。
保証の意味合いを知りすぎていたり、責任問題や独立性との関係を考慮すると、監査をやっている立場からはとても「勇気ある」行動はとりがたいものである。
また保証の場合の判断基準が、会計基準設定主体としてのASBJが作成したものではないとしたら、サインをする手が震えるかもしれない。

3、財務諸表の顔の方向

但し問題はもっと別なところにある。中小企業に減損会計や、税効果会計、退職給付会計、金融商品会計の適用云々を議論する以前に、我々職業会計人自身が、税務署提出目的の財務諸表と、公認会計士監査対象の財務諸表を最初から区分けしていないだろうか?
そして税理士業務専業会計人は、税務署提出目的の財務諸表が頭から離れない。
つまり税務当局からクレームをつけられない財務諸表作りとなる。従って、職業会計人の側に有税で不良資産を落とすという発想が出てこないゆえ、中小企業の経営者が有税処理で不健全資産を処理するという意識がないのは当然といえる。
つまり回収できそうもない貸付金や売掛金、長期滞留役員仮払金。姿形も無いのにバランスシートから落とせないままのの固定資産。償却不足の減価償却資産。売れそうにもないデットストック。不況下の日本経済にあっては、これらの不良資産が税法上損金にならない、あるいは損金にしなくても税務当局から咎められない、という理由で殆どの中小企業が貸借対照表に計上したままである。

一方、金融機関は全く別な見方で、中小企業であろうと無かろうと自己査定マニュアルに従って貸出先の自己査定をおこなう。
だから長期間滞留している社長貸付金や仮払金は、金融機関は全く資産とは見なさず、最初から不健全資産として自己資本から控除してしまっている。勿論償却不足額も推定して控除する。その結果金融機関がみる「みなし自己資本」は件並み債務超過状態ということになる。
金融検査マニュアルが公表されてから5年、そして金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」も本年改定され、中小企業の貸出先に対する金融機関の自己査定もますます磨きがかかってきている。

4、職業会計人の二律背反性

我々職業会計人が、中小企業金融への側面援助を自認するのであれば、体力のある財務諸表作成という視点で中小企業経営者を説得しなければならない。
体力のある財務諸表とは、内部留保の厚い自己資本の部といえる。とかく節税目的にのみにとらわれた役員報酬額の決定や役員退職金支払いは慎まなければならない。
内部留保は、税金を納めるだけの利益がなければならないのは当然である。つまり如何に税金を納めさせるかという視点からの財務諸表作りとなる。財務コンサルタントとしての公認会計士と節税を迫られる税理士の兼業職業会計人の悩みでもあるが、有税でも不良資産を落とせる体力づくりこそ、ROA等の比率も向上し、経営資産の効率経営という視点も芽生える筈である。日本経済全体の復活そして活性化という視点が我々職業会計人に求められているのではなかろうか?