会長の部屋
CHAIRMAN'S ROOM
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夢は自然科学者、でもやはり数字組立業
この業界に頭を突っ込み始めて、はや28年、ただひたすらわき目もふらずにここまで来てしまった故、「もしも税理士でなかったら」なんて考えても見なかった。
しかし一歩足を止めると、実にいい問いかけをしてくれたと考え直し、そこで重い筆(ワープロ原稿の場合は重いキータッチか)を取ることとした。
最近は、これからの会計事務所は情報提供業として捉えなければいけないと考えているが、以前は、異業種でのくだけた会合等での自己紹介で自分の職業を「数字こねまわし業」、「数字後追い業」、「数字組立業」と言っていたことがある。
「こねまわす」という言葉は意識的に皮肉っぽく言っているので誤解を招きやすい故、若干の補足説明を要する。税務申告の前提となる会計業務では、データのインプット作業、残高照合作業等、数字をこね回し、調整する作業が多くなる。また決算に当たっては、与えられた会計処理の制限下で、数字の調整、すなわち決算整理仕訳を行う。
更に相続対策、株式の評価、移動を中心とする事業承継対策、不動産売却対策等のタックスプランニングで、数字のシュミレーションをしたりする。このような一連の作業を総して「数字こねまわし業」と私は呼んでいる。決して「決算操作」とか「利益調整」という意味合いで「こねまわし業」と言っているのではないので誤解しないで頂きたい。
クライアントが作成した財務諸表から法人税の申告書の作成をするには、その財務諸表が正しいかどうかのチェックをしなければならない。
これは他人がやった仕事の後追いである。何か創造性の無い仕事のように感じることもあった時期がある。このようなチェック業務を「数字後追い業」とは呼ぶ。
「組立てる」という言葉には、建設的、創造的、指導的と言ったニュアンスが含まれる。そこで私はMASと言われる経営改善助成業務を狭義の意味で「数字組立業」と言っている。「記帳業務を中心とした過去データに基づく申告書作成業務だけではこれからの会計事務所は取り残されるよ」、と言うことで「MAS」「MAS」と騒がれた時期があった。(それは今でも変わりないかも)
MASの必要性は急務であるが、対象が広域にわたりすぎるが故にマニュアル化された手法が会計人自身で充分に見出されていないのが現状である。所長や資格者にしかできないサービスは会計事務所の商品になりずらいと言うことで、これは私の趣味の世界にとどめ、最近は事務所全体での商品化の指向は諦めた。私の個人的感覚からすればMAS業務はあえて言葉を悪くすると「社長そそのかし業」であり、「社長洗脳業」であり「社長叱正業」である。しかしその域を超えないと報酬に結びつかない。以上のように今の職業を省みてきたが、財布の中側から企業を見、経営者個人を観れるという職業は、他には絶対無いだけに、人間観察上実に興味の尽きない仕事とは思う。
実に興味溢れる職業とは思うものの、ふと考えると余りに実学的であり、過去データの後処理部分が多すぎるのかな、とも考える。大学を文科系で選んでしまったため、社会科学の世界に身を置いているが、社会科学の限界かな、ともふと考える。そこへいくと、自然科学の世界は、別な意味で実に魅惑的である。時たまその世界の人種と飲んだりすることがあるが、実に夢がある。
何で私はこんな後処理の「ハイ、お会計です」の世界にはまり込んだのかと思うこともあった。従って第二の人生が在るのなら、私はオゾンホールを発見して地球を救えるような科学者になりたい、と思っている。借方と貸方が絶対合わなければ前に進まない我が業界とは違って、答えの無い世界かもしない。それでも良いじゃないですか。
でも人生は1回しか無いんですよね。またこの世に生まれたら、法律と言う「規制」に守られた税理士業務を絶対に選びます。私にあった本当に良い職業だと思ってます。