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(銀行の貸倒引当金に関する日経の記事について)
2003年5月3日付けの日本経済新聞の報道によると、自民党の相沢英之デフレ対策特命委員長(税制調査会長)は、銀行の不良債権処理を支援するため、貸倒引当金を損金参入できる無税償却の範囲拡大を認めるべきだとの考えを述べている。
私がかねてから主張していた点なので、この考えには賛意を表明したい。なおこの報道の中で相沢氏は「無税償却を大幅に認めれば税効果資本部分がなくなり、銀行の自己資本が急激に減る心配がある」と指摘。「(無税償却)を段階的に認めながら、公的資金の注入をセットで考えればいい」とも述べ、償却見直しと資本注入の枠組み整備を同時並行で検討すべきとの考えを示している。
ここで気になる部分は「無税償却を大幅に認めれば税効果資本部分がなくなり、銀行の自己資本が急激に減る心配がある」という記述である。
もっと丁寧な表現をすると、「有税償却を行った個別貸倒引当金の設定対象となっている貸出金を、無税化によってオフバランス化(最終処理)する際、2次ロスが多額に発生する場合には、自己資本比率が減少する。」という言い方でないと誤解を生じる。
債務者区分が実質破綻先の企業に対する貸出金は、そのアンカバー部分に対して、ほとんど有税で個別貸倒引当金を100%設定済みであり、地価が下落して引当金のアンカバー部分が増えれば当然に各金融機関は貸倒引当金の積み増しを実施している。
従って最終処理で2次ロスが発生しない場合は自己資本比率には影響しないのである。
むしろ自己資本比率算出上の構造から自己資本比率は上昇することにもなる。
問題なのは、大幅な無税償却で各金融機関の課税所得が多額のマイナスになり、税務上の多額な繰越欠損金の5年間の期限切れが見込まれる場合には、繰延税金資産の回収可能性のスケジューリングが5年から1年に短縮されるため、そのことによる自己資本比率の大幅減の方が影響が大きいといえる。
不良債権を最終処理して貸借対照表からオフバランス化させると、自己資本比率へどのような影響が出るかについては、多くの誤解がある。この点については拙稿「税効果会計見直し論と自己資本比率」(経営情報4月号)をご覧頂きたい。仕訳に基づいて説明を加えてあり、逆に自己資本比率は上昇する場合や税効果会計のからくりについても説明を加えている。なお「税効果会計見直し論と不良債権問題」(経営情報3月号)も併せてご覧頂きたい。税効果会計に関する報道の不正確さについて実際の事例に基づいて書いてみた。
公認会計士 渡辺俊之